はじめて空を見上げたことと、その前後の出来事 1

起伏にとんだ地形は爆風で平坦に均され、全てが焼き尽くされた地表は、むき出しになった大地さえも灰となった。この星の全ての生物は消滅した。もちろん、一瞬にしてその表面全てが黒く焼け焦げてしまった災難の元凶である者と、その二人の仲間以外はである。

三人は背中合わせに足を踏ん張っていた。 三人の足場となっている場所だけが、本来の大地の赤さを保ち、いくらか湿り気を帯びた土の質感があった。だがその足場も、まさに爆心地である少年の足元を中心にせいぜい半径1メートルといったくらいで、他の二人があと数歩もその中心から離れていれば、彼らも驚異的なエネルギーの爆発に巻き込まれていたに違いない。 唯一大人であるらしい、禿頭の筋骨逞しい大男が、頬を伝って流れ落ちてくる冷や汗を、右手の甲で拭いながらひとりごちる。

―まだガキのくせに・・・末恐ろしい王子様だぜ・・・

首を捻って当の王子に目をやると、秀麗な、というにはいささか凶悪過ぎる顔つきで、鋭い視線を巡らしながら、満足そうな笑みを浮かべていた。

焦土と化したこの星が、ほんの24時間前まで、深い森とその森に住まう幾億種類もの命に満ち輝いていたとは、もう誰も信じることは出来ないだろう。この星の知的生命体が、自分らの種の命を繋ぐため以上のいかなる破壊も星に施さずに、他のどの銀河のどの星の文明にも真似できないような方法で高い文明を形成していったのか、それを伝える者も文献もデータも、一瞬の爆風で、塵と消えてしまった。

今からおよそ24時間前、ナック星は悪名高いサイヤ人の侵入を許してしまった。それは降って湧いたような災厄であり、いかに高い科学力があったとしても、事前の警戒がない限り、広大な宇宙から一人乗りの小さなポッドが三つ飛来してくるのを察知し阻むことは不可能であった。ましてやナック星人たちの精神の根底にあるのは、他者との共存、共栄であり、ナック星の全ての生命は彼らの同胞である。そういった彼らの心のあり方は、非常に高度な文明を作り上げながら、破壊や攻撃、警戒といった剣呑な方向へはあまり積極的に発達していなかったのである。

それでも軍隊はあった。彼らも宇宙には凶悪な種族があることを知っていた。
いざ戦うとなると、生身の戦闘力は著しく低いナック星人は、翼竜や恐竜を操りながら、恐ろしく防御力の強いバリアを張り、見た目の単純さからは思いも及ばないような攻撃力を持つ兵器で攻撃を浴びせてきた。
戦闘が盛り上がるのは歓迎だったが、できるだけ無傷で、あるいは自己修復力を十分に残す程度の傷で星を制圧したいサイヤ人達は、ある問題が浮上することで、苦戦を強いられることになった。

文明の粋を集めているはずの軍事施設や研究所などさえも、樹海に沈み込む谷間の、固い岩盤をくりぬくように作られ、空からも地上からも、スカウターだけでは、そこに集まる生命体の反応が、微弱な戦闘力しかないナック星人の集団なのか、ただの原始的な動物の群れななのか、あるいは村なのか重要施設なのか判断をつけるのが紛らわしく、小さな星とはいえ、そういった場所をひつつひとつ片っ端から破壊していくにも、三人ではどうにも効率が悪かった。
そしてこの星に降り立ってしばらくしてから感じるようになった、得たいの知れない精神への重圧。
サイヤ人達は知る由も無かったが、それは渾然一体としたナック星の全ての命からの彼らへの拒絶反応であったのだ。相手が別のものであればもっと有効に排除できたに違いなかったが、サイヤ人は切れてしまった。

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