「なんだよコリャ!テメー折れてんじゃねぇか!?あの薄気味悪ィ〜婆坊め何してくれてんだよっ!!ああっ!!ここっ!!パックリ割れてるじゃねぇか!!」
ラディッツは、肩の砕けた戦闘ジャケットとアンダースーツを脱ぎ捨ててあらわになった、ベジータのどす黒く腫れ上がった肩をこわごわと触りながら、フリーザに対して「婆坊」(ラディッツには婆みたいな坊やに見えるらしい)と暴言を吐き、なんだってあんたは真っ直ぐ部屋に戻って来るんだ、と、メディカル・ルームに寄って治療を受けてこなかったべジータをなじった。
「暑苦しいから近づくな」
ベッドの上に座りこんでいたベジータは、いやそうに顔をゆがめながら、片足でラディッツの体をベッドの端に押しやる。その動作も幾分弱々しい。
年齢はそうかわらないくせに、ラディッツはここ最近、急激に体が大きくなった。相対的に見て、体格の差が力の差ではないことはわかっているが、自分達のようなヒューマノイド型の種族なら、体が大きければ、それだけ自己内のパワーアップには繋がるのは確かである。忌々しさとあいまって、とにかくこの長髪でがさつな男が、覆いかぶさらんばかりに傍でわめくのはうっとうしことこのうえない。下級戦士はパーソナルスペースという言葉を知らないのだろうか、と、ベジータは舌打ちする。
三人の中で一番年嵩のナッパが投げてよこした氷嚢を片手でキャッチすると、ラディッツは、邪険にされたのも気にするで無く、再びベジータに近寄って、腫れ上がった肩にそれを押し当てた。割れた肩は、もともとそれほどの出血もなかったらしく、今では血も乾いていた。
フリーザのもとから青ざめた顔で戻ってきベジータの顔も、幾分血色を取り戻し、張り詰めていた神経もやわらいだ様子なのを見ながら、ナッパは苦々しく口を開いた。
「くそ、サイヤ人はそもそも協力者であってフリーザの正規軍じゃねえんだ。なんだってこんなに頭ごなしに力で押さえつけられなきゃなんねえんだよ!仕事が不如意に終わろうが、報酬を受け取らなきゃそれでチャラってのが当然なんだ」
組織図的にはサイヤ人はフリーザ軍の中に組み込まれてはいなかった。環境の良い星を、フリーザ軍の依頼を受けるか独自に攻略して、代償を受け取って引き渡し、それをフリーザ自身が開発するか、他所に転売するのである。言ってみれば下請け業者のようなものであって、どっちにしろ偉そうなことはいえないが、それでも独立した組織であるのだから、何かしらの失態があったとしても、契約上の裏切りなどがない限り、彼らの王子が肉体的な懲罰を受けるようないわれはないはずである。例えば今でもあらゆる要求は、サイヤ人たちには命令書ではなく、依頼書として届けられる。もちろん建前上は、である。すでに三人しか生き残りのいないサイヤ人は、事実上、完全にフリーザの支配下にあり、依頼は命令に他ならない。
「惑星ベジータが吹っ飛ぶ前も、状況は今とほとんど変わらなかっただろうよ」
ベジータは大人びた口調で、自嘲気味に吐き捨てた。
「おい、そういやフリーザ"様"から次の"依頼書"が届いてるぜ。半年で三つ。兵は必要なだけ連れてっていいとよ。やけに気前がいいじゃないか?またベジータが切れないように手を打ったんだな・・・こっち方面に手を出すのは初めてじゃねえか?ふ〜ん・・・場所が離れてやがるな・・・」
そう言いながら、片手でベジータの肩に氷嚢を当てながら、反対の手で薄っぺらの端末を起用に操作しながら、送られてきた"依頼書"の添付データを見ていたラディッツが、「おっ!」と声をあげた。
他の二人がなんだ?と言う顔で、ラディッツに目を向ける。
「この三つとも、今日から128日目に同時に満月を迎える」
「なんだ?それまで満月はないのか?」
だからどうしたとナッパが問う。
「いや別に。ただ偶然だなぁと思っただけだ。三つのうち二つはそれまでにも月が円くなる日はある・・・なあ、他の満月はやり過ごしてよ、128日目に同時にかたをつけてしまうのはどうだ?」
ラディッツの話はこうである。
現在地である惑星フリーザNO.9から標的の三つの星は、だいたい同じくらいの距離にあり、ポッドで約720時間前後かかる。標的同士は更に距離があり、離れている所で1200時間、近くても800時間を要することになる。そうなると、ひとつの星にかけられる時間は平均500時間、約20日程度。データを見る限りでは戦闘力はどれもカスのようなものだが、こればかりは行ってみないと何が出てくるかわからない。弱くても相性が悪いとてこずることもある。先日真っ黒焦げにしたナック星がいい例だ。サイヤ人達はフリーザの兵などもとから連れて行くつもりはないから、できればもう少し時間が欲しい。
「ここは一人一つずつってことにしようぜ。たまには俺達も休養ってのが必要だろ?ポッドの中で移動している間が休養なんてつまんねえよ!三人一緒で仕事しても、移動に時間を食うからのんびり出来るのはうまくいってもほんの数日だ(しかも雑用はほとんど俺にまわすだろ?)128日目の満月まで社会勉強がてらのんびり過ごしてよ、大猿であらかた片付けて残り二ヶ月で隅々の清掃を終わらせて帰還ってのは?まあやっつける時期は各々自由だが、早い時期に終わらせちまうとつまんね〜だろ?」
「ハッ!てめえの考えそうなことだ」
戦闘以外に何が楽しいことがあるものか、と、ベジータは本気で考えている。
馬鹿にしたようなベジータの言葉に、ラディッツは口を尖らせて無言で抗議する。恨めしそうな視線で、何がいけない?と。
体はでかくても、そんな表情はベジータよりよほど幼く見えた。
「だいたい、ベジータはまだしも、お前が一人でやれるのか?」
二人の保護者を任ずるナッパの言葉に、三人のうちで圧倒的に戦闘力が劣ることを自覚しているラディッツは反論できない。だが、それでもやはりサイヤ人である。並大抵の強さではないのだ。仲間の二人以外がそんな口をきけば、ラディッツの反応はまったく違うものになっただろう。
まあその辺は、様子を見ながら満月前に適当に調整するさ、と、そっぽを向いてすねてみせる。
「だが別行動というのは悪くない考えだ。いつまでもナッパにガキあつかいされているのもしゃくにさわるしな。それにここにあるデータ通りなら、おそらくまともな戦闘など望めないだろうから、それくらいのお遊びがあってもいいかも知れん」
ベジータの、凶悪だが楽しそうな顔に気をよくして、ラディッツはいつの間にか手でもてあそんでいた氷嚢を、再びベジータの肩にあてがったが、もっと冷えたのを持って来いとベッドから蹴り落とされた。
「一人でやれるのか?」とナッパは言ったが、赤ん坊を標的に送り込むサイヤ人であるから、やるのが当然だと思っている。今までは一人で出撃する機会がなかっただけだ。一人でも事足りそうな星でも、では誰が行くかとなると必ずもめるものだから、常に三人で行動していたに過ぎない。今回は標的が一度に三つでもやはりもめた。
「どれも似たりよったりだな・・・俺は・・・キカットにしとく」
ベジータがまず、比較的戦闘力の高そうな星を選んだ。
「ダメだ!あんたは怪我をしているし、ここは一番戦闘力の低い俺にキカットを譲って経験を積ませるべきだ!」
と、ラディッツが反論する。
「いや、ここは年齢順だな。年嵩の俺に花を持たせるべきだ」
と、今度はナッパ。
俺は王子だ!
一番チビじゃねえか!
体格順なら俺が一番だ!
禿げは黙ってろ!
・・・と、しばらく話し合いが続いた後、結局はジャンケン勝負で決着した。